楽園の守護者  番外編
 ― 王さまとお姫さま ―
 ― Makoto.Kanzaki Original Novel ―
(2010/09/23 20:52)
神崎 真


 むかしむかし、あるところに王さまとお姫さまがいました。
 王さまはとてもりっぱな人で、くに中にあらわれるようじゅうをたいじしたり、すばらしいまつりごとをして、こく民にとてもしたわれていました。
 そんな王さまが、まだ王子さまだったころのことです。
 王子さまは、南の地にようじゅうたいじにいきました。そこで、とてもすてきなお姫さまにであったのです。南の領主のお姫さまは、夜のような黒いかみにぞうげのようなはだをした、とても美しい人でした。そして美しいうえに、とてもかしこい人でした。
 王子さまはひとめでお姫さまが好きになってしまいました。お姫さまもりっぱな王子さまをだい好きになりました。
 王子さまはお姫さまに、どうかけっこんして下さいといいました。けれどお姫さまはうんといってくれません。なぜならお姫さまは、領主さまのあとをつぐため、おむこさんをもらわなければならなかったのです。それでは王子さまのおきさきにはなれません。
 はらはらと、しんじゅのようななみだが、ぞうげのはだをぬらしました。
 王子さまも声をあげて泣きました。王子さまはとてもかしこかったので、お姫さまのためにたいせつなまつりごとをなげだして、王子さまをやめることはできないとわかっていたのです。
 ふたりは泣きに泣いて、そうしておわかれすることになりました。
 やがて、お姫さまはひとりの騎士とけっこんしました。
 その騎士さまはとてもつよかったけれど、お金持ちでもなく、こうきな生まれでもない、へい民のしゅっしんでした。
 名もなき騎士さまがもっていたのは、たったひとつ。
 それはお姫さまだけを愛する、おおきなこころです。
 お姫さまはすべてをすてておむこさんに来てくれる、じぶんだけの騎士さまを手にいれたのでした。
 王子さまもまた王さまになって、べつのお姫さまとけっこんしました。そのお姫さまは、南のお姫さまほどきれいでもかしこくもありませんでしたが、王さまをとてもふかく愛してくれたのです。
 王さまとお姫さまはそれぞれちがう人とけっこんしましたけれど、どちらもふしあわせにはなりませんでした。
 人を愛することは、とてもたいせつなことです。
 けれど、人に愛されることは、もっともっとたいせつですばらしいことなのです。
 ふたりはおおきな悲しみをこえて、そのことを知ったのでした。

 おしまい


(2010/09/23 21:16)


―― 三百年後とかには、こんな話が巷間に流布していたら楽しいです(笑)

 

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