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 ぬえの集う街でIII  ―― Too much of a good thing.
 プロローグ
 ― Makoto.Kanzaki Original Novel ―
 
神崎 真


 次々と披露される珍奇な品々に、そのつどパーティー会場は賑やかに湧き返っていた。
 豪奢に着飾った紳士淑女を称する人々が、夜な夜なつどっては、表面ばかりの笑みを浮かべつつ、心にもない賞賛の言葉を交わし合う空間。
 そんなものになど、まったく興味はなかった。しかしこの街で暮らしている以上、どうしても避けては通れない付き合いというものがある。
 必要最低限の場のみを選び、礼を失さない程度に装って、足を運んだ証の挨拶を残したら早々に退出する。いつも、そんなふうにしてやり過ごしていたのだけれど。
 帰ろうとする足を止めたのは、何気なく流した視線に、ふと興味を惹かれるものが映ったからだった。

「 ―― あなた御自身は、こういった催しを開かれないのですね」

 目を向けた先にあったのは、真昼のような輝きを降らせる照明のもとで、美しく輝く一対の瞳だった。
 穏やかな口調の青年が、話しかけてくる。

 ―― 灼熱の黄金と、凍てつく氷の蒼。

 一瞬、義父が電脳世界で使用していた分身アバターが、そこにいるかのように錯覚した。
 黄金の鱗で全身をよろった東洋のドラゴンは、瞳もまたきらめく金属質の光を放っていた。その目には、誰の姿もはっきりとは捉えられておらず。どんな相手と言葉を交わす時にでも、常に変わらぬ孤高さをたたえていた。
 義父の死後は、己が受け継いだプログラム。ハンドルネームに合わせ、鱗を銀に変え、瞳の色も氷蒼アイスブルーに変更している。だがそれ以上は特段手を加えもせず、そのまま使用し続けていた。操作も特に問題なく行えているはずだったが……それでもどこか、何かが足りていない。そう、常々思っていた。
 その、足りない何かを、あの眼差しは思い出させてくれるような気がする。

 注意して観察してみれば、左は黄金というよりも金褐色だ。右の目も、わずかにだがくすんだ灰を帯びている。
 しかし、銀を思わせる頭髪の色も相まってか、その姿はさながら義父の分身アバターと己のそれを、重ね統合させたかのような印象イメージを彷彿とさせた。
 なによりも、周囲に存在する何者をも、目にしているようでいて見てはいない。どこか遠いどこかを眺めているかのような、その表情こそが。

 ―― 一刻でも早く形にしたい。この閃きインスピレーションを忘れぬうちに。

 脳内にプログラムコードを呼び出し、変更すべき箇所とその内容の候補を次々とリストアップしてゆく。そうしながら彼女は踵を返し、右手に装着した杖を動かして、叶う限りの速さで歩き出した。会場の出口を目指すその背中を、青年が追いかけてくる。

「お待ち下さい!」

 ゆっくりとしか進むことのできない彼女であるが故に、高い背に相応の長い手足を持つ青年は、たやすく肩を並べてきた。

「……あなたの誕生日は、確か来週でいらっしゃいましたね」

 柔らかだが、妙に耳へと残る声で、彼はそう問いかけてくる。

「あなたが、賑やかな場や虚飾に満ちた会話を好まないことは、よく存じ上げています。それでもどうか、わたしにも機会を与えて下さいませんか ―― ?」

 その口調には、どこか必死さすら感じさせて。
 わずかに首を傾げながらそちらを見上げた彼女へと、青年はひとつ息をついて温和な笑みを浮かべてみせた。

「どうかあなたに、贈り物をさせて下さい。あなたのためだけに、わたしが選ぶ一品を ―― 」

 胸元に手を当てて、そっと静かに一礼してみせる。
 その仕草は、どこまでも洗練された、優雅なもので……


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