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 死仮面 収録:死仮面

あの状況だと顔だけ残るのは無理があるのでは。

通りすがりに岡山県警へと顔を出した金田一耕助は、磯川警部から奇妙な告白文を見せられた。それを残した野口慎吾という男は、岡山のマーケットで安っぽい美術品を売っている芸術家だったのだが、ある日異臭に耐えかねて踏み込んだ近在の者によって、腐乱した女の死骸を隠していたのを発見されたのだという。彼は精神鑑定のため留置場から護送する途中、自殺を企て川に身を投げたまま行方が判らなくなっていた。
解剖の結果、女の死因は病死であり、それだけであればちょっと陰惨であるだけの事件として片付けられるはずだった。しかし遺品と野口が作成していたデスマスクによって、その女が殺人の罪で全国に指名手配中であった葉山京子だと判明したのである。
野口の手記によれば、京子は自分が死亡したらデスマスクを作成し、女流教育家の川島夏代に送ってほしいと遺言したとのことだった。野口が所持していたのは、記念のためにともうひとつ作成したそれだという。
葉山京子はわざわざ自身の正体を暴露するため、デスマスクを残させたのか。またキャバレーの踊り子にすぎなかった京子が、なぜそれを参議院議員をも務める著名な教育家などに送りつけたのか。
やがて東京に戻った金田一耕助のもとへ、上野里枝という女性がおとずれた。彼女は開口一番こう問いかけたのである。
「先生、デス・マスクってほんとうに死んでからでないととれないものでしょうか」
彼女は女流教育家川島夏代の異母妹であると名乗った。そして彼女らのもとに送りつけられたデスマスクは、もうひとりの異母妹、山内君子のものだと告げたのである。
彼女は名を変え家出し、殺人の罪を犯した末に死んだ妹が、まだ生きているのではないかと疑ったのだった。
そして数日後、川島夏代が女学院内にある自室で殺害された。その頃あたりでは顔を隠した跛の男が目撃されており、現場に残されていた第三のデスマスクから、警察はその男が川に飛び込み行方の判らなくなっていた野口ではないかと予測した。彼はその狂った理論から京子の復讐を思い立ち、夏代を殺したのだろうと判断されたのだが ――

金田一さんが「八つ墓村」がえりに岡山県警へ寄った所から話が始まっています。
そして「女怪」で語られていた、銀座裏のビルディングにある探偵事務所も登場。今回の事件は昭和二十三年の十月頃のことだそうで、そして金田一さんが復員してきたのが、「獄門島」によれば昭和二十一年の夏頃。「女怪」によると割烹旅館松月に転がり込む前に三ヶ月だけ銀座裏のビルに事務所をかまえていたわけですが……そうするとどうも金田一さんの動きがよく判りません。復員(二十一年夏)→獄門島の千光寺(二十一年秋)→三角ビルの事務所(二十三年の秋から前後三ヶ月内)→松月というふうに移動したのだとしたら、二十一年冬〜二十三年夏ぐらいまで、どこでどうしてらっしゃったのでしょう?

ちなみにいま読み比べてみたら、「女怪」では「銀座裏の怪しげなビルディングの最上階」、「死仮面」では「銀座裏の、俗に三角ビルと呼ばれている薄汚いビルディングの最上階」、「黒蘭姫」では「京橋裏にある三角ビル」となってました。ということは「黒蘭姫」だけ違うビルで、空白の時間帯はそこに住んでいたとか?
……あまり深く考えてはいけないのかもしれません(^ー^;;)

で、話のそのものの内容はというと、そう重くもなくややこしくもなく、判りやすい方ではないかと。いやよく考えると充分不気味で凄惨なんですが、どうもその他の作品に比べると今ひとつインパクトが薄いというか。でもかえってそれだけに読みやすい作品だと思います。「持ち運びの絶対に不可能なデスマスクの原型」という発想も面白いです。
ただ前半けっこう視点があちこちに飛ぶので、半ばも近くなって白井澄子嬢が出てくるまで少々混乱しました。
ところで金田一さん、なんであんなところにあった指輪をさらりと発見できたのでしょう? あと犯人の計画もちょっと……そもそも野口慎吾がうまく逃げられたから良かったようなものの、普通いったん警察に掴まったら、そう簡単には脱走なんてできないと思うんですがね……

※この部分を下書きしたあと、掲示板で「居候先の建て替えでしばらく例の三角ビルを事務所として再使用した時期がある」という情報をいただきました。すると流れは、復員(二十一年夏)→獄門島の千光寺(二十一年秋)→三角ビルの事務所(二十一年冬の三ヶ月間)→松月(黒猫亭事件/二十二年春)→松月建て替えにより三角ビルの事務所(死仮面/二十三年の秋)→再び松月→緑ヶ丘のアパートとなるのでしょうか。




 上海氏の蒐集品 収録:死仮面

金田一ものではないノンシリーズ中編。横溝先生の最後の作品だそうです。

戦争中に大怪我を負い記憶を無くした上海太郎氏は、自分がどこの誰かも判らぬまま日本に戻り、その土地に住みつくこととなった。傷の後遺症もあってほとんど人づきあいをしない彼だったが、人には好かれる性分で、小さいながらも趣味の良い家に、様々なコレクションと共に暮らしていた。
そんな上海氏にはお気に入りの場所があった。K台地のはずれ、多摩川丘陵を見下ろす一角である。もともとは御料林だったというそのあたりは、なんの変哲もない雑木林だったけれど、孤独を愛する上海氏にとってはこの上もない憩いの場所だったのである。
しかし二年ほど前より開発の波が押し寄せ、あたりには鉄筋コンクリートの建物が建ち始めた。雑木林も伐採され、台地の上には団地が建設されつつある。わずかに残された草地も、遠からずその姿を消すはずであった。
その日もいつものように草地で景色を眺めていた上海氏は、ひとりの少女に出会う。
彼女は上海氏がこの地に住み着いてから、何年もの間その成長を見守ってきた少女だった。
そして数日ほど前に上海氏は、彼女が団地の工事を指揮する現場監督と、逢い引き宿で共に過ごしているのを目撃していた。

……なんかあの雰囲気を書きあらわそうとしたら、第一の事件にも到達できてないし(苦笑)
とりあえず読了後の感想は「そうきたか!」でした。
読んでいる最中はなんだかいろいろと釈然としないものを感じていたのですが、最後の最後でひっくり返されました。いやあ、まさかあの絵馬と小説家がそう関わってくるとは……(ため息)
というわけでけっこう面白かったです。
ただ推理小説ではない……のかな? ちょっと不思議な感じのお話です。
それにしても、いちおう建設業界に身を置く人間としては、あんなところであんなふうに人死にされた日には、工事止まって大変だったろうなあとか、土台は壊して作り直しなんだろうか、いったい誰が予算見てくれるんだろうとか、そっちの方が気になってしまったのでした。




 迷宮の扉 収録:迷宮の扉

この巻から以降はジュヴナイル(少年少女向け)ものだそうです。

三浦半島のとっさき、城ヶ島に面した灯台にほど近い部分に、竜神館と呼ばれる建物があった。館の主は東海林日奈児というまだ十四、五才の少年である。日奈児少年は、父から与えられたその館に、後見人である降矢木一馬という老人と家庭教師の小坂早苗、使用人の杢衛じいやのとの四人で暮らしていた。
昭和三十三年十月五日のこと、竜神館に二人の客人が訪れた。ひとりは旅行中に急の嵐に見舞われたという、二重マントにくちゃくちゃのお釜帽を被った人物 ―― 金田一耕助。そしてもうひとりは、毎年その日にやってくるという謎の人物、誕生日の使者と呼ばれる黒ずくめの男だった。
金田一耕助のすぐ後に現れたその人物は、玄関扉に手をかけた直後、何者かに銃で撃たれたらしく、銃声に驚いた一同が迎えに出たときには、既にこと切れてしまっていた。そして犯人を追うべく放った番犬は、数本の髪の毛をくわえて戻った。なんとその髪は、海のように真っ青なコバルト色をしていたのである。
降矢木老人の話によれば、誕生日の使者は、日奈児の父親である東海林竜太郎から使わされてくるのだという。竜太郎はある理由から命を狙われており、現在姿を隠しているとのことだった。そして息子である日奈児を危険から遠ざけるため、妻の兄にあたる降矢木老人に託したのだが、せめて少しでも息子の様子を知るべく、こうして一年に一度使者をよこすというのだった。竜太郎の居場所は降矢木老人も知らず、また使者についても身元はおろか名前さえ聞いたことはないらしい。
しかしその晩のこと、警察がひきあげた後、降矢木老人は金田一耕助にさらに詳しい話とひとつの依頼を持ち込んだ。
竜太郎を狙うその集団は、戦時中のある事件がもととなって全員コバルト色の髪をしているのだという。だが、髪の毛は染めることができる。あるいは使者を殺した犯人は、青い毛髪を残すことで、警戒の眼を復讐団の方に向け、自分は涼しい顔をして次に打つ手をうかがっているのではないか、と。降矢木老人はそう言うのである。
その目的は、日奈児の命 ――
なぜなら日奈児は竜太郎の莫大な遺産の相続人で、しかも有力な競争者を持っているのだった。
その競争者とは、東海林月奈児。東京湾を挟んだ反対側、房総半島のとっさきにある海神館に住む少年だった。
彼ら二人は、かつて同じ母の腹から同時に生まれたシャム兄弟だったのが、手術で現在のように切り離されたのだという。そして降矢木老人の妻五百子に託され、日奈児と同じように暮らしているというのだが……


うーん、この巻を読む前に次の「夜光怪人」も読んでいたのですが、どうも金田一シリーズのジュヴナイル、私には向かないかも、です(−_−;)

事件の内容的にも、月奈児・日奈児それぞれの家庭教師が共謀していたのは良いとしても、その二人はいつどうやって知り合ったのか、また彼らはそれぞれ姿を隠していた東海林竜太郎や月奈児・日奈児らをどうやって見つけだすことができたのか、そもそも東海林竜太郎がこんなことをやる発端となった、郷田啓三殺しの動機やいきさつは? という感じで、どうにも消化不良感が残ってしまいました。 ……そもそも推理ものの三人称で、地の文に思いっきり嘘書いてちゃいかんだろうよ……
どうせならしっかり一冊分かけて、そのあたりをきっちり書き込んでほしかったです。
あと月奈児、日奈児の扱いがなんというか……いや、これは言わないお約束ですな。

とりあえず要チェック部分、以前無実の罪に落とされかけたところを金田一さんに救われたという、密輸団のボス上海ジムが登場してます。五十歳前後の白髪老人で、一見柔和な好人物。昔は手下をリンチしたりといった手荒な真似もしていたのが、金田一さんに助けられたおり、こんこんと意見された結果、そういうことはやめたのだそうで。今回は金田一さんに頼まれて、人捜しに協力しております。こういう人脈、きっといっぱい持ってるんでしょうねえ、金田一さんは。




 片耳の男 収録:迷宮の扉

金田一ものではない、ノンシリーズ短編です。

ある日のこと、医科学生宇佐美慎介は友人宅からの帰り道、ひどい夕立に襲われ、井の頭公園近くにある古いほこらで雨宿りしていた。そしてそこで暴漢に襲われた少女を助けることとなる。赤いかみしもに赤いはかま、同じく赤いふさのついたとんがり帽子にお面を被ったチンドン屋ふうの暴漢は、少女からなにかを奪おうとしていた。
少女の名は鮎沢由美子といい、慎介がよく行く本屋の店員であった。由美子を自宅まで送り届けた慎介は、そこで縛り上げられた由美子の兄、俊郎を発見する。俊郎もやはりあのチンドン屋によって襲われたということだった。
翌日のこと、慎介のもとを由美子が訪れた。彼女の話によれば、由美子と俊郎の兄妹は五六年前まではかなりの財産家だったのだが、しかし父が船の事故で死に、母もそのショックで急死して以来、すっかり没落してしまったとのだという。ただ不思議なことに、父が死んだのち、毎年命日である八月十七日になると、誰からともない差出人不明の贈り物が届くようになった。あるときはお金だったり、あるときは高価な宝石だったり ―― てんで心当たりのないそれを、兄弟はいつとはなしにおとぎ話の贈り物と呼び、誰か父と親しかった人が影ながら自分たちを見守ってくれているのだろうと考えていた。
昨日はまさしくその八月十七日、あのチンドン屋はその贈り物を狙っていたのだという。幸い奪われずにすんだ今年の贈り物は、品物ではなく一通の手紙だった。
その手紙には、話したいこととおゆずりしたいものがあるから、すぐに雑司ヶ谷の七星荘を訪ねてほしいと書かれていた。また片耳の男が兄妹の命を狙っている、とも。
昨日のチンドン屋は、確かに右の耳たぼが噛み切られたように半分なくなっていた。
由美子は慎介に対し、七星荘に同行して欲しいと頼んでくるが ――

貧しい兄妹が、隠し遺産を受け継いでお金持ちになるという、非常に判りやすいお話でした。宝探しのくだりは、なんとなくマスグレイヴ家とかポーの黄金虫とかを思い出してわくわくしてみたり。できればもう少し謎解きに行を割いてくれると、なお楽しかったかもしれません。




 動かぬ時計 収録:迷宮の扉

上に同じく、ノンシリーズ短編。

父と二人暮らしの眉子は、中学校を出るとまもなく、父の六造が勤めている会社の電話係となった。毎日父とともに通勤するのを、彼女はこのうえない楽しみとしていた。
眉子には母がない。亡くなったのか、それともどこか遠いところへ行ってしまったのか、それさえもわからなかったが、母の話をすると父が困ったような素振りをすることから、彼女が母のことを口にすることはなくなっていた。
そんな眉子が小学校に上がるようになった年の頃から、彼女のもとへはどこからともなく優しい贈り物が届くようになっていた。それから毎年五月十五日になると届くその贈り物を、眉子はいつも楽しみにしていたのだが、何故か父はそれをあまりこころよくは思っていないようだった。
今年の贈り物は、美しい金柑色の時計だった。
うす紫とバラ色のリボンを付けた金時計は、貧しい電話係の少女の持ち物としては、少し不似合いなもので、だから眉子はその時計をいつも懐の奥深くにしまい込んでいた。肌身離さず、寝るときさえも身につけるほど大切にしていた。
しかしある晩のこと、いつものようにネジを巻いていたところ、どうしたはずみにかふいに時計が動かなくなってしまった。
どうにかして修繕できないものかと、裏蓋を開けてみた眉子は、そこに見知らぬ婦人の写真が貼り付けてあることに気がついて ――

ちょっと変わった雰囲気のお話です。少女向きの童話という感じでしょうか。
文中ではっきりと語られる事実はなく、物事はただそれとなく示唆されるだけ。
優しく、そして切ない印象が残ります。












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金田一耕助覚書

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