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 夢の中の女 収録:金田一耕助の冒険2

横溝正史の文章って、ときどきいきなり横文字が混じり込んでいて妙な感じがします。しかもそれが最近のカタカナ英語ではなく、実際に英単語として覚えたものをカタカナに開いているらしくって、なじみのない表記になっているからいっそう違和感が。
そんなわけで金田一さんは、冒頭から世にも異常なサープライズを味わったそうです(笑)

金田一耕助が行きつけているパチンコ屋の看板娘、夢見る夢子さんこと本多美禰子が死体で発見された。懐の中に差出人金田一耕助による、不思議な呼び出し状を抱いて。
彼女は三年前に姉を殺害した犯人を捜して欲しいと、金田一耕助に依頼していた。呼び出し状はその犯人が判明したから、相手をとらえるための芝居として、姉が殺されたその場所へ、姉が死んだときと同じ格好でやってきて欲しいと告げていた。すなわち、姉の形見のイブニングドレスに真珠の首飾り、そして手にはホタルの入ったランタンを提げて、と。
そして彼女は姉と同じ場所で、姉と同じ姿をして殺されていたのである。

最近の世論として語られていた偽札事件が、あとになって本筋に絡んでくるのはお約束。
しかし夢想家であるが故に「夢見る夢子さん」と呼ばれていた少女が、実は相手の言動の裏の裏まで考える用心深い人間だったというのが、どうもいまひとつしっくりときません。
夢見がちだからこそ、金田一耕助の名で送られた手紙の、ドラマチックな指示にも従ったのだろうと誰もが信じていたけれど、実際はそうではなかったと、その展開は別に良いんですが、その理由というのが「夢想家というのはじぶんでいろんな場合を空想することは好きだが、他人の夢想には乗らないのがふつうだと思うんです」って……普通、ですか? その考え方って。

そうそうこの話、ラストの一文の気が利いてます。
金田一さん、自分は荒事には向かないのだと、ちゃんと把握しているのですな(笑)




 泥の中の女 収録:金田一耕助の冒険2

死体消失ものという点では「霧の山荘」を思い出し、話全体の印象から「霧の中の女」とか「花園の悪魔」を思い出します。

夫の仕事の件でどうしてもその晩の間に人を訪ねなければならなかった立花ヤス子は、その相手の帰宅を玄関前で待ち続けていたが、寒さに耐えかね、同じ敷地内にある離れへと向かった。明かりがついているそこで暖をとらせてもらおうと声をかけると、中から現れた眼鏡とマスクで顔を隠した女は、病人がいて医者を呼んで来たいから、代わりに留守番をしていてくれないかと頼んで出ていく。
しばらく火鉢で暖まっていたヤス子だったが、あまりに隣室が静かなので病人の様子をうかがおうとすると、そこに横たわっていたのは病人などではなく絞め殺された女の死体であった。
慌てて警察を呼びに走ったヤス子だったが、しかし当の離れにかけつけてみると、そこでは探偵作家とその友人がのんびりと酒を飲んでおり、女の死体はもちろんのこと、眼鏡とマスクの女さえ、まったく心当たりはないとのことであった。
勘違いか夢でも見たのだろうと、彼らは結論したが、しかし一週間ほどの後、女の死体が川の泥の中から発見された。死体の身元は探偵作家の情婦の一人。そして犯人だと目されていたもう一人の情婦もまた、死体で発見され、探偵作家は服毒自殺を図る。

離れで人が殺されて、犯人は死体の服を着て逃げ出すというパターン、横溝先生好きですよね(苦笑)
そしてここでも脇キャラの若夫婦がなんだか妙に書き込まれております。
それにしても、死体を発見したのはよれよれの袴をはいて雀の巣のようなもじゃもじゃの頭をした男 ―― と、地の文ではなく、警官からの電話でそう表現されたあげく、一発で金田一耕助だと等々力警部に看破されてしまう金田一さん。ほんっとーにトレードマークなんですね、その格好(苦笑)




 柩の中の女 収録:金田一耕助の冒険2

上野の美術館で行われた美術展の落選作品を引き取り運送途中だった、運転手白井啓吉が、人殺しという叫びと共に警察へと乗り付けてきた。
彼が美術館から引き取ってきたのは、古垣敏雄の手になる等身大の女性像だったが、棺を思わせる木箱の中に横たわるその女性像の一部が破損したことで、内部から女の肉体らしきものがのぞいていたのだ。
さっそく作成者の元へと聴取に向かった警察だったが、そこで判明したのは、その作品が古垣の作ったものによく似せられた、違う塑像だったということである。しかし内部から発見されたのは、確かに古垣の元妻和子。
古垣は前月妻と別れ、その妻を旧友のやはり美術家に譲り渡していた。
そして森は美術展の作品受付最終日頃より行方をくらましていた ――

ひとつと見せかけて二つかと思いきや、実は三つあった塑像がポイントです。
ところで金田一さんが推理のきっかけとした「ニスの臭い」というのが「つけひげはニスでつける場合がありますね」と当たり前のように語られているのですが、これって当時は常識だったのでしょうか?




 鞄の中の女 収録:金田一耕助の冒険2

走っている車のトランクから、女の足が突き出しているとの通報が相次いで寄せられた。すわ、殺人事件かと色めき立った警察だったが、車の持ち主に話を聞いたところ、女の塑像トランクに入れて走っていたのだが、ポーズの関係でどうしても片足が入らなかった。仕方なくそのまま運転していたら、行く先々で人を驚かせてしまったので、このとおり片足を折ってしまったと現物を見せられたことで、人騒がせな件だったということで片が付いてしまったのだが。
しかしその翌日、金田一耕助の元に、その件についてとても心配なことがあるから相談にのって欲しいという電話が寄せられた。よほど動転しているらしく、名乗ることもしなかったその女性は、約束の時間になっても姿を見せず、一時間以上もすぎてから金田一耕助を訪ねてきたのは、夫と名乗る駒井泰造という男であった。駒井の妻は件の車の持ち主、彫刻家片桐梧郎の妹であり、彫刻のモデル望月エミ子から、片桐に殺されるかもしれないという相談を受けていたというのだ。
くだらない心配に煩わせて申し訳ないと謝罪に訪れた駒井だったが、しかし二人が話している最中、兄の元を訪れていた妻から連絡が入る。
鍵のかかったアトリエの中で、女が死んでいるようだというのだ。

冒頭での電話を、金田一さんがテープレコーダーに録音しています。
それを後に聞き返すことで、犯人の工作が明らかになるのですが、私は何度読み返してもさっぱり判りませんでした。
そうそう、この話では三ヶ月前に引っ越してきたばかりの緑ヶ丘荘に、清掃婦のおばさんが一日おきにやってくるということが語られています。こういう細かいところがファンには嬉しいんですよね。

……ところでなんで「鞄」の中の女なんでしょう、この話。トランクという言葉には「乗用車の後ろにある荷物入れ」っていう意味と「大型の旅行用鞄」という二つの意味があるそうですけど、でもちょっと苦しいのではないでしょうか。




 赤の中の女 収録:金田一耕助の冒険2

金田一さん、また海に来ています。本当に旅行好きですよね、この人。観光が好きと言うわけではなく、旅行に行った先でだらだらするのが好きというあたり(笑)
そして等々力警部が(以下略)

H海岸ホテルで休養していた金田一耕助は、一組の新婚夫婦とそれぞれの旧知の仲らしい男女との、ちょっとした会話を耳にする。そして同じようにその会話を聞いていた麻服の青年の、憎悪と怯えをない交ぜにしたような表情を目にして、彼はこの海岸でなにかしらのドラマが進行中なのだと感じる。
そして翌朝、新婚夫婦の妻が死体で発見された。のどのあたりに大きな親指の跡がついた、他殺死体で。そしてまたホテルの中からも妻の友人であった永瀬重吉の死体が発見される。
麻服の青年によれば、新婚の妻はかつて彼の兄の結婚相手であり、結婚詐欺の疑いがあるという。しかしそれならば殺されるのは夫の方ではないのか。

結婚詐欺のかち合いという、確率的にあるのだろうかそういうことというお話。それに脅迫やらまで関わってきて、短い割に人物関係がややこしいです。
しかし金田一さん、本当に行く先々で事件にぶつかるお人です。
しかも必ず事件が起きる前に、その人の言動に着目していたり、話を盗み聞いていたり。旅先で純粋な寝耳に水な事件に出会ったことって、あるのでしょうか?












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金田一耕助覚書

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