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 霧の中の女 収録:金田一耕助の冒険1

この短編集こそ、タイトルを見て話を思い出せないものの筆頭です(苦笑)

数メートル先を行く人の姿さえ見えないほどの濃い霧の夜、銀座の宝飾店『たから屋』へ、ストールと色眼鏡で顔を隠した女が現れた。女は店員の隙を見て商品を持ったまま店を出ようとしたが、気づいた店員がそれを止めようと近づいた瞬間、店員を刺し殺して逃亡する。ダイヤの指輪と真珠のイヤリングを手にしたまま。
数週間の後、連れ込み宿で殺されていた男の枕の下からイヤリングが発見された。殺されていた男は、たから屋のすぐ近くにあるアルバイト・サロンの常連で、そのサロンに勤める女の一人、村上ユキはたから屋での事件があった直後、ペンキを塗ったばかりのポストに抱きついてしまったと言って、オーバーの前を赤く汚して帰ってきていた。
ユキのオーバーから血液反応が出たことで、警察は犯行を確信するが、しかし金田一耕助は二番目に殺された男のズボンと靴、オーバーが持ち去られている事などに不審を抱き、さらに捜査を続けてゆく。

容疑者ユキと夫穣治の若夫婦がなんだか微笑ましいです。喧嘩っ早そうで実際こんな旦那だったら色々困るでしょうが、奥さんの無実をどこまでも信じぬいて、その結果重要な証拠を発見してくれたのだから、奥さん嬉しかったでしょうね。

結局、たから屋の事件と連れ込み宿の事件は別人の仕業でしたが、連れ込み宿の事件をきっかけにたから屋の事件も解決。
……しかしたから屋の犯人が女装した男というのは良いんですが、なにもそれをわざわざ『男娼』に設定しなくても良いと思うんですが(苦笑)




 洞の中の女 収録:金田一耕助の冒険1

木の洞を埋めたコンクリートから、一本髪の毛が出ていたらどうしますか?
……私だったらコンクリこねてるときに混じっちゃったんだろうなあと解釈して、あとは見なかったことにしたいんですが。

売家を購入して引っ越してきた一家が、庭先にあるケヤキのうろを、コンクリートで埋めてあるのを発見。そのコンクリートの表面からは一本の長い髪の毛がはみ出し、ふわりふわりと風にそよいでいた。
具体的に想像するとめっちゃ不気味ですよね。その一家は見なかった振りをするわけにも行かず、コンクリートを掘り返し、その結果、中から全裸の女の死体を発見することに。
さっそく以前に住んでいた日疋(ひびき)に話を訊くが、家を手放してから半年以上も空き家になっていたのだから、その間のことはなにも知らないという。しかし女癖の悪い日疋が以前関係を持った女のうち一人が、消息を絶っていた。

日疋という男がいかにもあくどい怪しい男なのですが、さすがにそこにはどんでん返しが。
しかし髪の毛は後日死体を発見させるために、わざと一本はみ出させてあったらしいのですが(実際わざとじゃないと一本だけ出しておくのは難しかろう)、それから死体発見まで半年もの間、よくぞ切れずに残っていたものです。8月から3月の間なんて、雪も降ったりしたことだろうに……




 鏡の中の女 収録:金田一耕助の冒険1

何度読んでも犯人に共感できないお話。
つーかこんな理由で殺人なんてされた日には、おちおち喫茶店でおしゃべりもできません。

とある喫茶店で金田一耕助とお茶を飲んでいた聾唖学校教員増本女史は、突然なにかに驚いた様子で、壁に掛かった鏡を見つめ始めた。やがてペンを取りだし彼女が書き留めた言葉は、「ストリキニーネ」、「ピストル? だめよ、音がするから」といった、犯罪を思わせる一連の会話であった。彼女は唇の動きを読む読唇術(リップリーディング)の技術を持っており、鏡に映った離れた席の男女の会話を読みとったのである。
不穏なものを感じさせる会話だと増本女史は不安がるが、金田一耕助はまさか銀座の真ん中で人殺しの相談でもないだろうと、笑ってとりあわなかった。
しかし二週間ほど後、金田一耕助はまさにその会話に出てきたとおりのシチュエーションで発見された死体と対面する。しかも死体の主は、その会話を交わしていた男女の片割れだったのである。

なんだかんだと話は動きますが、ポイントは最初の喫茶店のシーンにあります。というかあとで読み返してみれば、確かに鍵となるその点はきちんと書かれているのですけれど、それにしても……うーむ……




 傘の中の女 収録:金田一耕助の冒険1

パンツひとつの赤裸で甲羅干しする金田一耕助、波打ち際でボチャボチャ水遊びする金田一耕助。古谷一行で想像すると妙に健康的ですが、私の原作イメージ耕助さんだとあばらの浮いた貧相な姿なので、また妙にわびしいというか、微笑ましいというか。
そして等々力警部はまたも金田一さんの旅先に押しかけております(笑)

鏡ガ浦のホテルに滞在していた金田一耕助は、軽く泳いだのち浜辺で昼寝をしていた。すぐ近くに立てられたパラソルの影からは、カップルの甘いささやき声が聞こえてきて悩ましかったが、しかし場所を移すのも面倒だとそのまま寝てしまうあたり、事件がないときの金田一耕助は怠惰きわまりない。
目を覚まして間もなく、東京からやってきた等々力警部が現れ、二人で会話しているところに、例のパラソルの影から悲鳴が聞こえてきた。なんとそこでは人が殺されていたのである。金田一耕助が横たわっていた場所から、三メートルと離れていない場所で行われた殺人事件。金田一耕助は自分が目撃したとおり、しばらく前にパラソルの影から逃げ出していった男の存在を証言するが、自分の見たものと他の目撃者の証言との食い違いに不審を覚え、調査のやり直しを提案する。

しかしまあこの話での等々力警部と金田一さん、仲のいいこと。
お互い言いたい放題の軽妙な会話もさることながら、地元の警官に対して金田一さんを紹介するのに「わたしもいろいろご助力をいただいていて、まあ、仲よしなんだな」はないでしょうよ、警部さん。……巡査が呆気にとられていたのは、なにも金田一さんの手腕を疑っていたからではないと思うのですよ(笑)




 瞳の中の女 収録:金田一耕助の冒険1

新聞記者の杉田青年は、記憶を失っていた。
ある晩、公園付近をパトロール中の警官に発見された彼は、頭を殴られて昏倒しており、目を覚ましたときには、過去の記憶の一切をなくしていたのである。
両親も兄弟も、婚約者ですら認識することのできなかった彼だが、しかしただひとつ鮮明に覚えているのは、ひとりの女の面影であった。目を開いていても閉じていても、たえず瞳の中に焼き付けられている女の顔。しかしその女がはたして何者なのかは、彼にも周囲の人間にも全く心当たりがなかった。
やがて一年数ヶ月が過ぎた後、入院中の病院を襲った火事をきっかけに彼は記憶を取り戻す。しかし全てを思い出した後も、彼は記憶をなくしたきっかけとなった、事件当夜のできごとを、がんとして話そうとはしなかった。

この話では、金田一さんほとんど推理していません。取り戻した記憶をたどって歩き回る杉田青年の後を、等々力さんといっしょに尾行しているだけで。そして等々力さんに着物姿は目立ちすぎるとからかわれる金田一さん(苦笑)

そして杉田青年の落ち着きぶりが印象深いです。
普通、死体掘り当てたらもうちょっとびっくりすると思うんですが、ごく冷静に「よいところにおいでになりました。ほら、ここに女の死体が埋まっていますよ」って……
結局、犯人も見つからず、事件は曖昧なまま。まあ、杉田青年と婚約者が幸せになれたようなので、読後感は良いですけれど、ミステリ小説といえるのかなあ、これ。




 檻の中の女 収録:金田一耕助の冒険1

ある事件で水上署のランチに乗っていた金田一耕助と等々力警部は、霧の中でかすかな鈴の音を耳にする。その音を頼りにランチを進めてゆくと、大きな犬の檻を載せたボートに行き会う。その檻には毒を飲まされた瀕死の女が、長襦袢一枚の姿で押し込められていた。そして彼女の長襦袢には大量の血痕が……
上流を捜査した結果、川に面した血まみれの座敷が発見され、血痕の量から警察はもう一人殺され川に沈められたものと見なして捜査を始めるが、じょじょに偽装工作の疑いが強くなってくる。はたして行方不明となっている女の情夫は、本当に殺されているのか、それとも自ら姿をくらましたのか。

何故に檻?? と思うのですが、まあそれは突っ込んじゃいけないのでしょう(笑)
横溝ものに意味不明な道具立ては欠かせないということで。
しかし犯行を早く見つけて欲しかったにしても、他にもうちょっとやり方はあると思うんですが……












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