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 七つの仮面 収録:七つの仮面

うーん、なんだか要約しにくいお話です。
話は娼婦ミサによる手記の形で進んでゆきます。

かつてはカトリック系の女学校で聖女とも呼ばれていたミサは、先輩山内りん子といまわしい関係を結んだ過去があった。りん子はけして美しくはなかったが、その知性と一途な熱っぽい愛情とに、ミサはいつしか虜となってしまっていたのである。
しかしやがて彼女との擬似的な肉体関係に物足りなくなってきたミサは、卒業を機にりん子との関係を絶ち、銀座の高級喫茶ベラミでウエートレスとして働き始めた。
ベラミでの彼女は、その清らかな美貌から多くの崇拝者を得たが、彼女自身は聖女の仮面の下で群がる男達を値踏みしていた。そうして最初に選んだ男が彫刻家の江口万蔵。彼と濃厚な肉体関係を結びつつも、ミサはなおも他の男達に対しては聖女の仮面をかぶったまま、さらなる快楽を求めて複数の男達を天秤にかけ続けていた。
そんな彼女の一番の心配は、沈黙を保ちつつも、三日にあげずベラミに通いつめては焼け付くような視線を向けてくるりん子の存在で ――

語り手が普段と違うお話のご多分に漏れず、金田一さんがかなり後になるまで出てきません。まあそのぶん、金田一さんの語る内容はインパクトがあるのですが(でも、何がしたかったんだ、この人はと思わなくもなく/苦笑)




 猫館 収録:七つの仮面

かつて写真館として利用されていたその館には、いかがわしい噂がつきまとっていた。戦争前にエロ写真の撮影を行っていて警察の手入れを受けただとか、あるいはえげつない秘密パーティーを行っては、経営難をしのいでいただとか。
立地条件からして陰気で秘密ありげなそんな家を、借りようとする人間は滅多にいない。現在の借り主は、ドクトル・ハマコと呼ばれる女占い師であった。
その占い師が死体で発見された。上半身裸でスカートだけを身につけた彼女の死体は、十二匹の生きた猫と、一匹の死んだ猫によって取りまかれていた。

猫館という名前のいわれは、ハマコが猫をたくさん飼っていたからなんですが、よく思い返してみると、猫が出てくる意味あんまりないような……いやまあ、一匹は意味あったんですけど。ああでも死体発見の役にもたったのか……うーむ。
猫と死体というと「迷路の花嫁」の方を思い出しますが、やはり短編だけあってあちらほどのインパクトはありませんね。




 雌蛭 収録:七つの仮面

個人的にかなり好きです、この話。金田一さんが変装なんかしてるし(笑)

ある晩、金田一耕助は電話で不思議な依頼を受けた。聚楽荘というアパートの四階八号室にハンドバッグを忘れたから、代わりに取ってきて欲しいというのである。
名前は名乗れない、料金は後日バッグを取りに伺ったときにお支払いする、という奇妙な依頼だったが、相手の女性のせっぱ詰まった様子に、金田一耕助は引き受けることにした。人目につかぬようにとのことだったので変装した彼は、指示通り電話ボックスに置かれていた鍵を使って八号室へと入り込む。
そこで彼が発見したのは、硫酸で顔面と下腹部を焼けただれさせた、男女の死体だった。

なんといっても、変装している金田一さんです。洋服着てます。アロハにハンチング帽にべっこう縁眼鏡です! 想像できますか?
ちなみに本文中では、洋服を着るといっそう風采があがらなくなる度合いが強いと書かれています。だから和服で押し通していると明記されてるんですよ。さらには、腕力と運動神経に自信がないので、アームチェアー・ディテクティヴを気取っているとも書かれています。いやもう、ここまで書かれるか、主役の探偵が(笑)




 日時計の中の女 収録:七つの仮面

最近になって急速に名をあげた作家、田代裕三が、アトリエつきの新しい家を買った。つい数年前まで女房に稼がせていた男が、いまや三千万の家を買い、さらに数百万をかけて手を入れるという贅沢ぶりである。
だが妻の啓子は、いささか夫の出世の早さについていけずにいるようだった。この家の前の持ち主が、そのアトリエに愛人を連れ込んでいたことを知り、夫もまた同じことをするのではないかと勘ぐっているようにも見受けられる。田代のいとこである可奈子は、自分に対して啓子があらぬ誤解をしているように感じていた。
そんな折り、庭の改装工事中に、日時計の中から女の死体が発見される。それは前の住人の愛人であった。犯人と思われる前の住人はすでに死亡しており、事件は終わっているかに思われたのだが、しかしやがて啓子は何者かに命を狙われていると訴え始めた。
誰もがノイローゼ気味の彼女の言葉を信じようとはしなかったが、数日後、アトリエそなえつけのベッドで啓子の妹、晶子が絞殺される。

事件が起こったと思ったら、あっという間に犯人が自殺してます。金田一さんは以下事件の解説のみ。……これだから殺人を止められない探偵と言われてしまうのでしょう(苦笑)
ところでなんで奥さんは旦那のこと名字で呼んでるのでしょう?




 猟奇の始末書 収録:七つの仮面

事件巻き込まれ型金田一耕助。またも旅行先で事件が発生しております。
しかしこの人しょっちゅう旅行に出かけてますけど、いったい人生のどれだけを旅に費やしてるんでしょうか。

金田一耕助は、中学時代の先輩である三井参吾の別荘を訪れていた。彼の別荘は険しい崖の上にあり、望楼から望遠鏡で見下ろすと、人魚の洞窟と呼ばれる入り江を眺めることができた。他の場所からは死角になっているそこには、ときおりカップルの海水浴客が入り込んでは、大胆な行為を展開することがあった。
その日金田一耕助が望楼にあがると、三井は友人の土産だという小ぶりのアーチェリーをいじっていた。昨日もまた若いアベックが洞窟に入り込んでいたので、悪戯心を起こし、近くへ矢を射かけてやったのだという。
そんな話をしていた折りも折り、人魚の洞窟から慌てたように飛び出してくる人影があった。不思議に思い望遠鏡で見下ろした金田一耕助は、胸に矢を突き立ててボートに横たわっている、女の死体を目にする。それは三井の愛人堀口タマキであった。

金田一さん、犯人が判ったのなら本人に問いただす前に警察に知らせて下さい(苦笑)
この話も犯人死亡のうえ、未然に防げたかもしれない殺人をみすみす行わせる結果になってます。これが金田一耕助の金田一耕助たるゆえんといえば、その通りなのですが……




 蝙蝠男 収録:七つの仮面

大学入試を十日後に控えた深夜、自室で試験勉強をしていた由紀子は、向かいに建つアパートの窓に目を奪われた。由紀子の部屋の真正面にあるその部屋には、若い女性が住んでいるのだが、日頃から多くの男性が出入りしており、若い由紀子には刺激的すぎる環境であった。その窓のカーテンに、蝙蝠のように羽根を広げて立つ男の姿が映っているのである。
シルクハットにインパネスという格好をしているらしい男の影は、由紀子の目の前で女の胸へと短刀を振り下ろした。カーテンに血の飛沫がかかり、そうして部屋の電気が消える。
あれは夢だったのか、それとも自分は殺人を目撃してしまったのだろうか。怯える由紀子だったが、死体発見の報は思わぬところから届いた。
その部屋の住人であるストリッパーリリー梅本は、その職場であるナイトクラブの楽屋で、衣装トランクに詰め込まれた状態で発見されたのである。

時代がいつ頃なのか今ひとつはっきりしませんが、大学受験という単語が妙に現実感をそそります。金田一ものは、戦前から昭和四十八年あたりまで順不同に話が存在するので、話によってけっこう雰囲気が違っているのがまたおもしろいです。
しかしこの話、急転直下で犯人が捕まっているのですけれど、「それにしても金田一耕助がなぜこのふたりに眼をつけたのか、それは金田一耕助のみが知る秘密となった」って……それミステリ小説としてありなんでしょうか(苦笑)




 薔薇の別荘 収録:七つの仮面

キャバレーローズの経営者、女傑と呼ばれる吉村鶴子が、親戚一同を招いての食事会を計画していた。会の目的は明らかにされていなかったが、なぜか彼女は秘書の堀口三枝子にも出席するよう命じ、また招かれた客の中には鶴子の顧問弁護士と、私立探偵の金田一耕助が含まれていた。
いったい彼女がなにを考えているのかと一同は首を傾げるが、鶴子は予定の時刻を過ぎても自室から出てこない。不審に思い自室まで彼女を迎えに行った三枝子と、鶴子の甥である加藤朝彦は、鍵のかかった扉の鍵穴から、室内に倒れている鶴子の姿を見つける。三枝子の持つ合い鍵で中に入ると、鶴子は扼殺されていた。
同じ頃、庭では不審な男が捕らえられていた。チンピラめいた風体のその男児玉健は、大金を同封した匿名の手紙により、この屋敷へと招かれていたのである。

児玉健を招き寄せる手紙の下りは、もろ「女王蜂」を彷彿とさせます。書かれたのはどっちが先なんでしょうか。でも手紙を受け取った人間の反応としては、女王蜂の多聞連太郎の方がしっかりしてます。お金使い込んだあげく、貧相な格好のままでやってきて、殺人犯の疑いはかけられたけど他人に冤罪晴らしてもらったあげく、しっかりした職と未来の恋人まで手に入れる……ものすごい棚ぼたな男だよなあ……
ところで金田一さん、なんで会食に招かれてたんでしょう?












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金田一耕助覚書

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