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 花園の悪魔 収録:首

金田一さんがなかなか出てこなくて、途中金田一ものだということを忘れてました(苦笑)
こちらは↓の「生ける死仮面」と違って、死体発見時の美しさがポイントかと。

東京から電車で一時間ほどの所にある連込宿で、女の全裸死体が発見された。女は東京のヌードモデル南条アケミ。殺される十日ほど前にもこの宿にやってきており、宿自慢の見事な花壇の中で、ヌード写真を撮影していた。彼女の死体は、その写真そのままの扇情的なポーズで発見されたのである。
彼女が泊まっていた部屋では、男と食事や同衾をした形跡が残されており、警察は残された凶器であるマフラーから、持ち主である山崎欣之助を指名手配した。
しかし欣之助の行方はなにひとつ手がかりのないまま時が過ぎ、一ヶ月が過ぎる頃、駅の一時預かりから犯行当時欣之助が身につけていたとおぼしき血染めの帽子やオーバー、また現場から紛失していた南条アケミの衣服一式が発見された。

離れ屋で殺人を犯した犯人が、被害者の衣服を身につけて逃亡という展開、多いです(苦笑)
まあその都度、男装してた犯人が本来の性別に戻ってたり、男が女装して逃げてたりといろんなパターンがあるので、なかなか犯人は読みとれませんが。

そして今回の金田一さんと等々力警部の会話。
例によって詳しい事情を話さぬままに連れ出された警部が、本当にただの散歩であるならば、自分は忙しいので失礼すると言うのです。
「それともなにかわたしに話が……?」
「困ったひとですね。ねえ、警部さん、ぼくはまだひとりもんなんですぜ、寂しいんでさ。(中略)たまにゃぼくのアベックのお相手くらいつとめてください。口説こうたぁいやぁしないから」

そしてこの発言にぷっと吹き出して
「こりゃまた、大変なアベックだ」
とか言う等々力さん、
……狙ってますか? 狙ってますか、腐女子の萌え心を!?>横溝先生

あとこの話では文中に「メッカ殺人事件」とか「メッカ・ボーイ」という言葉が出てきます。読んでいる時にはなんのことか判らなかったのですが、どうもこれは作品発表当時に起きた実在の殺人事件であり、当時の流行語だったようです。
計画的な犯罪だった割にずさんな犯行、逃亡したきり行方の判らない犯人などといったあたりが特徴だったとか。
こういった、いまとなってはぱっと理解できない当時の常識というのが出てくるのも、昔の作品を読む上での醍醐味だと思います。




 蝋美人 収録:首

複顔術が話のポイントとなっています。この頃にはまだきちんとした技術として認められていなかったのでしょうか。
この覚え書きを書き始めるきっかけとなったのが、TVで放送された古谷一行の「白蝋の死美人」ことこの話でした。犯人のキャラクターづけがずいぶん変わっていて、それはそれで良い話だったかと。

軽井沢の密林で発見された身元不明の女の死体に、複顔術を施し身元を明らかにする。法医学会の山師との悪名を持つ畔柳博士の試みに、世間は大きくわいた。はたして白骨から科学的に顔を復元するということは可能なのか、話題づくりのでっち上げではないかと騒がれる中、畔柳博士は百貨店の防犯展覧会会場という、派手な舞台での除幕式を実行する。
そうして披露されたのは、かつてその妖艶な美しさを賛美され、また昨年夫を殺害して逃亡中と目されている、元女優立花マリに生き写しの蝋人形であった。
立花マリは逃亡後に自殺していたのか、それともあるいは冤罪を着せられ真犯人に殺害されていたのか。事件の見直しが行われる中、畔柳博士の殺害という新たな殺害が発生する。その現場では立花マリの蝋人形が木っ端みじんに破壊されていた。

老婢から証言をもらうために、打ち解けてもらえるまで畔柳博士の家に通いつめる金田一さん。しまいには私室に通してもらって、火鉢の前でくつろぎきっていたりします。部屋の主の老婢はのんびりほどきものなんかしながら相手しているし、本当に相手に警戒心を与えないお人です(苦笑)

オルゴールが逢い引きの合図で、しかも中に指の骨が隠されていたというネタは、由利先生シリーズの「薔薇と鬱金香」でも使われています。




 生ける死仮面 収録:首

「睡れる花嫁」を思い出すこのお話。
横溝ものは猟奇的なお話が多いですが、なかでも指折りの不気味さだと思います。残酷どうのというより、ひたすら気持ち悪い。

山下敬三巡査は、自分の担当区域にあるとあるアトリエにひとかたならぬ興味を抱いていた。彼はそこに住まう彫刻家古川小六という男が、数日前に浮浪児とおぼしき美少年を連れ込むところに行きあっていたのである。古川は近所でも有名な男色家であった。
あのアトリエの中で、彼らははたしてどのような生活を行っているのか、また日ごとに強くなってくる、アトリエから漂ってくる悪臭の原因はいったいなんであるのか。ある日、アトリエ内部から聞こえてくる泣き声をきっかけに中をのぞき込んだ巡査は、そこで相好の区別もつかぬほど腐乱した少年の死体と、死体を愛撫する古川小六、そして少年の生前の顔を写し取ったとおぼしきデスマスクを発見する。
病死した少年の遺体を手放すに忍びず、いつまでも手元に置いて愛していたかったのだと、古川小六はそう主張したが、やがてデスマスクから判明した少年身元と、死体の身体的特徴が合わぬことが判明して ―― ?

犯罪を誤魔化すために、腐乱死体と共寝するって……想像するだけでかなーり嫌です。凄惨美というのも通り越して、ひたすらグロい(汗)
男色やら半陰陽やら関わってきて、この話はひたすら猟奇的です。犯人の片割れがまた、妙な精神構造しているし。
ちなみに私は、作者のひっかけに見事に引っかかりました。あそこでもう一転するとは、してやられました……




  収録:首

岡山県警の磯川警部とのお話。
やたら旅先で合流しては事件に巻き込まれるのが等々力警部なら、金田一さんに旅館を紹介ついでに昔の事件も紹介するのが磯川さんだと思います。
金田一さんも、本当に休養したいのなら磯川さんに連絡取っちゃ駄目だって(笑)

大阪での事件が思ったより早く解決したので、足を伸ばして岡山の磯川警部の元へと挨拶に寄った金田一耕助は、どこか良い静養場所はないかと相談を持ちかけた結果、兵庫県との県境近くにある「熊の湯」という温泉旅館に案内される。
この湯治場には「獄門岩」、「首なしの淵」と呼ばれる残酷な伝説をもつ場所があった。そして一年ほど前、その伝説と同じように熊の湯の養子が殺されたのだという。首なしの淵に傷だらけになった首のない死体が浮かび、滝の中途に突き出した獄門岩の上には、その生首がさらされていたのである。
犯人は判らぬまま、迷信深い村人などは「たたり」だなどと言い出す始末。このままでは警察の面目が立たぬと悔しがる磯川警部に、金田一耕助は苦笑いしながらも事件の見直しに乗り出した。
しかしその翌朝、同じ宿に泊まっていた映画ロケ一行のひとり、監督の里村恭三が死体で発見された。やはりその首は「獄門岩」で、身体は「首なしの淵」で ――

伝説を含めて、同じような事件が三回起こるわけですが、トリック自体はふ〜んという感じです。まあ一種の盲点ではあるかな?
ただ●●をお弁当といっしょに運んだというのがちょっと……何も知らずにお弁当を食べた人がいささか気の毒です(汗)
犯人は裁きを受けたからと、真相は闇に葬り口を拭ってしまう金田一さんと磯川警部。磯川さんは職業的良心より人道的良心の方が大切と、言い切っちゃってます。東京の等々力警部と比べて、過去の因習や地方の人間関係のどろどろさ加減を知っている磯川さんだからこそ、こんなふうに割り切ってしまえるのかもしれないと思いました。












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金田一耕助覚書

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