++お礼SS 楽園の守護者


※ひとつ前のお礼画面の続きにあたります。
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 身分を隠して街を散策していたその時、ふと『それ』に目が留まったのは、やはり先日の舞踏会でのことが頭にあったからだろうか。
「…………?」
 護衛として数歩あとをついてきているアーティルトが、なにかあったのかと、距離を詰めてくる。そうして私の視線が向く先を、同じように目で追った。
 市場に並ぶ幾つもの露店の中で、そこはどうやら装飾品を扱っているらしい。もちろん、私が常日頃目にしているような高価なものではなく、ありふれた半貴石や硝子を材料とした、庶民向けの品ばかりが並んだ店だ。
 それでも、台に広げられた白布の上の品々は、降り注ぐうららかな陽光を浴びて、色とりどりにきらめき、通りがかる人々 ―― もっぱら若い娘達 ―― の関心をひいている。
 いまも、十七八とおぼしき二人連れが楽しそうに、互いの胸に首飾りをあてては明るい笑い声を上げていた。
 つと手を伸ばすと、私は最初に目に止まった、腕環を取りあげる。
 水晶を主体とした球形の石に穴を開け、紐で連ねただけの、ごく簡素な作りのものだ。しかしいくつか混ざっている色石のひとつが、特に目を引いたのだ。
 顔の前にかざし、陽光に透けるその色を確認する。
「ああ……やはりな……」
 輪を構成する他の珠よりもいくぶん大ぶりなそれは、どうやら硝子らしい。それだけが球に近い多面体に磨かれているあたり、一番の主体として使われているのだろう。
 その硝子玉は、とても濃く、それでいてひどく鮮やかな深蒼色をたたえていた。
 ―― そう、まるで良く晴れた夏の日の、海のような。
 少し角度を変え、傍らに立つアーティルトにも、その色が判るようにしてやる。
「…………」
 しばらくそれを眺めていた彼は、やがて私の方を見ると、わずかに口元をほころばせた。
 どうやら、同じものを連想したらしい。
 さらに注意して見れば、水晶玉の中にはいくつか銀針水晶が混ざっている。とびとびに配されているのは、やはりどこまでも濃く深い、血の色を思わせる赤……柘榴石ガーネット、だろうか。

 なんというか、もう、これは。

 ―― 買うしかないだろう。

 隠しから銀貨を一枚取り出し、店主へと差し出す。
 と……
「毎度! ……と言いたいですが、ちょっといま釣りを切らしてまして。もうちょっと、その、細かいもので……いただけないですか、ね」
 戸惑ったような風情で、受け取りかけた手をさまよわせている。
 ……金貨を出さないだけの、分別はきかせたつもりだったのだが。
 あいにくなことに、これより少額の貨幣は持ち合わせがない。仕方なくアーティルトをふり返ると、彼は心得たように自らの懐を探り ―― そこで、ふと、その気を変えたようだった。
 懐から出された手が、そのまま陳列台の上へと伸ばされる。
 そうして彼は、一対の小さな耳飾りをつまみ上げた。
「…………」
 店主へとそれを示し、私の手の中にある腕環を指さし、軽く首を傾げてみせる。
「え? ……あ、ああ、はい。それなら、どうにか。少々お待ちを」
 足元にあるらしい金入れへとかがみ込み、音を立てて金を数えているようだ。
 やがて、小さな巾着にぎっちり詰めた、大量の小銭が渡される。

「ありがとうございました!」

 大きすぎるほど威勢の良い声に送られて、我々は露店の前を離れる。

「ユーフェミアにか?」
 歩きながら耳飾りに目を落としているアーティルトへと、そう問いかけてみた。
 この男は、しばしばこういった場所で我が異母妹への土産を選んでいるらしい。それは公爵家の姫に渡す物としては、ありえないほど質素なものばかりなのだが ―― それがむしろ、彼女にとっては新鮮らしい。どれも大切そうにしまわれているのを、私は知っている。
「…………」
 だが彼はかぶりを振ると、手のひらに載せたそれをこちらに見せた。
 どれ、とつまみ上げて光にかざしてみる。

「 ―― なるほど」

 珠に磨いた銀針水晶シルバールチルのすぐ下に、小さな柘榴石 ―― いや、あるいは紫水晶アメジストあたりだろうか ―― 濃い色の切片が揺れている。
 それは、まるで私が買った腕環とそろえたかのような意匠だった。
 アーティルトと目を見交わし、期せず小さな笑いをこぼし合う。

「さて、問題はどうやってこれを受けとらせるかだが……」

 耳飾りをアーティルトに返し、腕環の硝子玉を眺めながら、そう呟いた。
 『あれ』は、やると言って素直に受けとる男では断じてない。
 私が持っていても仕方がないと訴えたところで、それがどうしたと返されるだけだろう。
「…………」
 アーティルトも考え込んでいるようだが、あまり良い案は浮かばないらしい。

 ―― まあ、良いだろう。

 ややあって、私はそう結論した。
 次の舞踏会まではまだしばらくあることだし、ゆっくり機会を待てば良い話である。

 ―― そう、それにだ。

 どうしても駄目なその時には、

「お祖父様からは受けとったくせに、我々のは何故駄目なんだと、そう言ってやればすむことだしな」

 ―― あの男は、あれでけっこう押しに弱いのだから。





―― 犬井さんちのプレゼント企画に応募し、ロッドのイメージでとお願いして作っていただきました。
犬井さま、素敵なブレスレットとイヤリング、ありがとうございました!



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