++お礼SS 骨董品店 日月堂


「そう言えば、前から一つ疑問に思っていたのだが」
 いつものごとく、日月堂内でお茶など飲みつつ、そう口を開いたのは黒ずくめの蜘蛛オタク、伯爵こと幸田伴道だった。
 ちなみにその日、茶器を手に卓を囲んでいたのは、伯爵と和馬、それに心霊治療士ヒーラーの遠野沙也香にその秘書兼義息の譲、そして何故か晴明の友人である河原直人の五人であったりしたのだが。
 一人席を立って、それぞれのカップに茶を注いだり、菓子を用意したりしていた晴明は、いったい何を訊かれるのだろうと、首を傾げて伯爵を見下ろしている。

「晴明どのと秋月の ―― は、恋人同士なのかな?」

 次の瞬間、いっせいに飲み物を吹き出す音が店内に響きわたった。


◆  ◇  ◆


 ひととおり惨状を片付け終えてから、一同は気を取りなおして再び腰を落ち着けていた。
 ちなみに何名かは、着ているものが変わっていたり、思い出したように咳をくり返したりしているのだが、まあそれはおいておいて。
「……いったい、どこをどうしたら、ああいう発言が出てくるのか、是非とも訊きたいところなんだがな。伯爵よ」
 地を這う低い声で、和馬がそう口火を切る。
 改めて淹れ直された茶を持つ手には、見事に鳥肌が立っていた。
「どこをどう、と言われても困るが」
 問われた伯爵の方はというと、己の発言が何故これほどの反応を引き出したのか、まったく理解できないでいるらしい。
 困惑したような面持ちで、一同を眺め、晴明の方をふり返る。
「ずいぶん親しくしているようだし、よく泊まったりもしているのだろう?」
 実際、二階の客室などは、ほとんど和馬専用と化していたりする。台所にも立ち入っているようだし……と呟くのは、以前晴明が風邪で寝込んでいたおり、邪魔だと追い返されたのを根に持っているからかもしれない。
 確かに和馬とて、『ただの友人』ですませるには、いささか踏み込みすぎているという自覚もなくはない。
 だが、それでもだ。
「俺はっ、男相手にどうこうする趣味はないっ」
 だん! と卓を叩いて力説する。
 いくら晴明が男にしては色白で線の細い見た目をしていようとも、これを女と勘違いするほど和馬は血迷っていなかった。
「……勘弁してちょうだい」
 沙也香が眉をしかめて、呟いた。どうやら何かを想像してしまったらしく、非常に嫌そうな顔でかぶりを振っている。
 一同の反応に困惑している伯爵に、晴明は丁寧に説明した。
「現代日本においては、同性同士の恋愛というものはタブーに近いものがありますからね」
 拒否反応を示される方も多いようです、と。
 いやその説明は確かに間違いではないが、多分に形式的というか、表現が穏やかにすぎるだろうよ。
 誰かがそうつっこみを入れるより早く、伯爵が口を開く。
「そうか……では私も気をつけた方がいいかな」
 私も? という疑問が形になる前に、今度は晴明が爆弾を落とす。
「そうですね。あまり公にされると、相手の方やご家族などのお仕事にも、差し障りが出かねないようですし」
「なるほど、それは確かに困るかな」
 ふむふむとうなずく伯爵に、晴明は当たり前のように同意している。

「……え、えーと……お二人、さん?」

 一番最初に声をかけたのは、意外にも一般人の直人だった。
 ある意味、さまざまな衝撃を受け慣れている彼だからこそ、驚きからの復活も早かったのかもしれない。
「なに、直人?」
「なにかな、少年」
 同時にふり返って問うてくる二人に、直人はおそるおそる確認した。
「あ、あのさ。もしかして伯爵……さんの恋人って……」
「ああ、うん。男性なんだけどね」
「うむ。確かにあれはれっきとした男だ」
 うんうんと、互いに顔を見合わせてうなずいている。
 どうやら晴明は、既に直接面識があるらしかった。
「伯爵よりもお歳は上でいらっしゃるようなんだけど、かなり体格がよろしくて、野性的な ―― 」
 そう説明し始めるのを、一同は思わず声を上げてさえぎった。
「わーーーッ!」
「キャーッ、キャーーーッ! 聞きたくなーーいーーッ!!」
 全員耳をふさいで絶叫する。
 伯爵と晴明だけが、きょとんとしたようにその様子を眺めていた。
「……なるほど、これが世間一般の反応というやつか」
「そのようですね」
 首を傾げる二人には、そのあたりの嫌悪感というものがまったく実感できていないらしい。
 晴明は大騒ぎが一段落ついてから、それぞれをなだめるように新たな菓子を勧めたり、冷めた茶を取りかえようとしていた。
 一同もどうにか落ち着きを取りもどそうと、茶を口に運んだり、黙々と焼き菓子を咀嚼したりと、気分を切り換えるべく努力する。
 やがて、伯爵が気がついたように、ふと顔を上げた。

「そういえば ―― 」

 改めて和馬の方を見やり、しげしげとその姿を眺めている。
 なんだか嫌な予感がして身じろぎした和馬に、伯爵はにっこり笑って、その日一番の爆弾発言を投げつけた。

「きみは少し、私の恋人に似ているな」

 悪意の欠片もなく、むしろもしかしたら誉め言葉ですらあるかもしれないその発言に、しかし和馬は心底からの寒気と悪寒に、全身鳥肌を立てる羽目となったのだった ――


―― ちなみに人外だったりします<伯爵の恋人



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