++拍手お礼SS 骨董品店 日月堂


「 ―― ときどき、思うことがあるのですよ」
 つぶやく声は、いつもとそれと変わらぬ、感情の乱れを感じさせない平穏さを漂わせていた。
「ひびの入った器も、それはそれで美しいものじゃないかと」
 なめらかな、透明なガラス器の表面を彩るひびは、不規則に光を跳ね返し、時に誰にも真似できぬ、玄妙な美しさを描き出す。
「そして、ね」
 そっと指を伸ばし、冷たい表面を静かに撫でる。
「粉々になったガラスの破片は、もっともっと美しいのかもしれないと」
 ひびの入ったもろいガラス。
 美しいけれど、それはいつか失われてしまうかもしれない、危ういそれで。
 ならば、いっそ。
 粉々に砕けてしまったならば。
 そうすればもう、壊れてしまうことを恐れることはない。砕けた破片は二度と元には戻らないけれど、同時にそれ以上に壊れることはなくなるのだから。
 そうして、きっと。
 砕けたそれらの欠片たちは、きっとそれはそれで美しいのだろう。
 透明な、一部の曇りもないガラスは、きっと砕けてしまってさえ、そのきらめきを失わないはず。
「お前はどう思う? ―― 都築つづき
 その問いかけに、しかし返答など求められていないことは明らかだった。








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