5.薔薇。 たとえ痛みを伴っても。
 花から連想5のお題より】
 ― Makoto.Kanzaki Original Novel ―
 
神崎 真


 またも増えた生々しい傷のひとつひとつに丁寧に膏薬を貼り付けながら、リリアは哀しみと共に、わき上がってくる感動をも確かに感じとっていた。
 コーナ公爵家の公女を主人あるじとするこの女騎士は、確かに男性にも劣らぬほどの剣技の持ち主であったが、それでもいつも無傷ですむとは限らなかった。
 むしろ男達の間に立ち混じり、それでも引けを取ることなく剣を振るおうとするがために、彼女は誰よりも多くの傷をその身に負っているのかもしれない。
 だがそれは同時に、彼女がそれだけ多くの存在を、身を挺して守ってきたその証でもある。
 もっとも親しい侍女として、常にその治療に当たっているリリアは、そんなふうに信じてやまない。


 戦いから戻るたびと言っていいほどに、増えているその傷。
 それらの中には跡形もなく治るものもあれば、一生涯消えることがないだろうものも存在している。
 いくつものそれらは、単に傷の痛みといったそれとはまた別の『痛み』をも、彼女に与えているに違いなかった。
 それでも彼女は剣を取ることをやめないし、誰かを守るため戦場へ身を置くことも厭わない。


 ―― あるいはそれは、彼女が他の生き方を知らないが故にかもしれないけれど。


 幼き頃、乳母の過失によって負った、顔面の傷跡。
 貴族女性としては完全に疵物とみなされ、縁談の来ようもない彼女にとって、フェシリアの配下として剣を取ること以外に生きる道など、残されてはいないのかもしれないけれど。


 それでも ――
 いくつもの傷跡に埋められた彼女の肉体を、リリアは美しいと感じている。
 衣服に隠され生来の白さを保った部分に刻まれた、さまざまな傷。それらは彼女に多くの痛みを強いてきたのだろう。
 それでもやはり、それらは美しかったのだ。
 自らの境遇を嘆き、疵物の姫よという世間の評価に押しつぶされることなく、剣をとって立った彼女。
 まっすぐに背筋を伸ばし、前を見すえて立つその後ろ姿が、リリアの目には見えるようだった。


 この傷跡は、彼女の持つ誇りの証。
 肉体の美しさなどよりも、どれほど整った容姿よりも、なによりもあでやかに彼女を彩る装飾なのだと ――


 そんなことを考えながら。
 今日もリリアは、少しでも痛みが和らぐよう、傷跡など残らぬよう、細心の注意を払いながら、その傷を手当てしてゆくのであった。


 薔薇 ―― どこまでも艶やかな、花の中の花。その花言葉は「誇り」、「無垢の美しさ」。




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