21.宛先のない手紙 【99文字】
『いまどうしていますか』
『元気ですか』
『私のことを覚えていますか』
時おりよぎる想いを、向ける相手の居所は判らず。
そんな時はただ、空に向けて呟く。
『私はいま幸せだから』
そのことだけでも届いてくれれば。
++楽園の守護者
22.赤い靴 【99文字】
「あれハイヒールって言うんですっけ」
「ピンヒールとも言うね」
「靴といいスーツといい、なんであんな動きにくい格好したがるんだか」
「美紗子さん曰く、戦闘服らしいよ」
そんな彼女が戦う敵は、化物ではなく ――
++特殊処理実働課
23.望んだ世界 【89文字】
彼は何にだってなれるし、どこへだって行けるのだ。
そのことに気が付いて、ただ一歩足を踏み出しさえすれば。
いつかその日はくるだろうか。
あの人形のような少年が、世界になにかを望む日が。
++骨董品店 日月堂
24.たとえ声を失くしても 【100文字】
『風邪を、引いた』
そう綴る指文字は、多少ぎこちがなかったけれど。
「熱でもあんのか」
『ない』
「じゃあ問題ねえな」
『問題ない』
「だ、そうだぜ?」
「で、殿下、御無理は……ッ」
『大丈夫』
そこに通訳がいるから。
++楽園の守護者
25.オルゴール 【99文字】
澄んだ旋律が、ゆっくり速度を落としてゆく。
「繰り返しなのに、ちゃんと終わりのくるのが良いですよね」
「いきなり切れないのも、なんとなく良いな」
シンプルな音色を聞いていると、心が落ち着くのは何故だろう。
++骨董品店 日月堂
26.どこかへ 【100文字】
「どこでも良い、誰か連れて行ってくれ」
ここではないどこかなら、文句は言わないから。
だから、どうか。
「はいはい現実逃避はいいから。あと15分で会議始まるぞ。書類まだか」
「鬼かお前」
「貴様に言われたくない」
++かくれおに
27.羽を下さい 【100文字】
「いや別に良いんだけどさ。いるならそうと言ってくれてれば、生え替わりの時とっといたのに」
「……」
「って、痛い痛い、ちょっと待った!」
「さっさとよこせ」
最近コウが使う矢には、猛禽の羽がついているらしい。
++月の刃 海に風
28.境界線 【96文字】
闇の中で燐光を放つ、黄金玉の瞳。
なにがおかしいのか、くすくすとこぼされる楽しげな含み笑い。
月光を浴びて浮かび上がるのは、角と牙持つ異形の姿。
『あれ』と自分の間には、けして越えられない線がある。
++かくれおに
29.振り子 【83文字】
「なあ、篝のやつどうしたんだ」
「さっきまで、仕入れたばかりの柱時計をご覧になってたんですが」
「それがなんでひっくり返ってるんだ」
「……振り子を見ていて酔ったそうです」
++骨董品店 日月堂
30.優しい嘘 【92文字】
「ああ凪、新しいリボンですか。良くお似合いですよ。ねえ、和馬さん」
その言葉に、硝子玉のような一つ目がきらきら光りながら見上げてくる。
いや晴明よ、お前は心底から本気だから良いだろうがよ。
++骨董品店 日月堂
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