11.おやすみ 【100文字】
電気を消して、寝台に入る。掛布団の上には複数の小さな重み。
「おやすみなさいませ」
そう告げても返る言葉はないけれど。
揺れる触手やかしげられる首が、雄弁に答えをくれるから。
彼は今日も安らかに眠るのだった。
++骨董品店 日月堂
12.名前 【100文字】
「ロッドにラグレーってお前……」
今時どこの田舎者でもつけない取り合わせだろうに。
もう少し考えればと嘆息するカルセストに、ロッドは鼻で笑ってみせた。
「区別がつけば良いんだよ」
彼にとってはそれだけのこと。
++楽園の守護者
13.痛みと悲しみともう一つの 【100文字】
飛び散る血と羽毛を浴びながら、胸に庇った船長を見下ろす。
驚愕に歪んだその表情に、ああまたやってしまったと悲しくなった。
けれどその悲しみよりも、肉を裂かれる痛みよりも。
独りよがりな充足がこの胸を満たす。
++月の刃 海に風
14.もしも 【66文字】
もしもひとつだけ願いが叶うならば、いったいなにを望もうか。
「金」
『別に、なにも』
本当に叶えたい望みは、たとえ戯れでも形にはできない。
++楽園の守護者
15.こいねがう 【99文字】
「俺はいま切実に願ってることがある」
「どうしたんだいきなり」
「へえ、いったい何ですか」
「頼むから俺に平穏な学生生活を送らせてくれ」
「無理だな」
「無理ですね」
「即答か!?」
―― 見込まれたのが運の尽き。
++かくれおに
16.雨が上がるまで 【100文字】
夕立を避ける枝の下。
「なあ、暇なら一曲弾かないか」
「皮が
湿気るから
嫌だ」
「……
謡だけでも構わんが」
「気分が乗らないんだよねえ」
「……金がいるのか」
「違うわ!」
こんな会話ができるのも、二人旅だからこそ。
++斬靄剣 鈴音道行
17.虹 【100文字】
透明感のある銀の髪が、陽の光を浴びて七色にきらめいていた。
「すごく綺麗だ」
つい口に出してしまってから、まるで口説き文句のようだと気が付く。
内心ひどくうろたえながら、それでもやはり綺麗だと改めて思った。
++楽園の守護者
18.一輪の花 【81文字】
「もらうなら花束よりも、一輪だけのが嬉しいわ」
「そうなんですか?」
「だって私のために選んでくれたって、そう思えるじゃない」
―― 欲しいのは自分のための特別なひとつ。
++骨董品店 日月堂
19.黄金の林檎 【88文字】
「……食えねえな」
「いやそういう問題じゃないだろう」
「売れば金になるか」
「だからそうじゃなくて」
『植えて増やせば、もっと儲かる?』
「なるほど」
「……」
実はけっこう似たもの同士。
++楽園の守護者
20.相変わらず 【100文字】
「相変わらず可愛らしいわねぇ、アナタ」
「お前も変わらず格好いいな」
「替わりたいぐらいよ」
「まったく同感だ」
それは顔を合わす度の決まり切った会話。
どうにもならないことならば、笑い話にするしかないだろう。
++キラー・ビィ
5行以内で50のお題へ戻る
オリジナル小説書架へ
Copyright (C) 2006 Makoto.Kanzaki, All rights reserved.