1.出会い 【99文字】
鏡に映った己の姿に、死んだ方がマシだと叫んだその直後。
首を絞めてきたその手の力と、間近で見た銀灰の瞳の暗さに、心底からの恐怖を覚えた。
―― あの時殺されかけたからこそ、自分は生きる道を選べたのだった。
++キラー・ビィ
2.三日月 【100文字】
夜空に浮かぶ月は縁が大きく欠けていて、鋭く研がれた銀の
剣を思わせた。
「普通は猫の目とか、
船とかを連想するんじゃない?」
「んー、でもやっぱり刃って感じがするなあ」
それは他でもない、彼らの船長が纏う
印象。
++月の刃 海に風
3.あの日の約束 【93文字】
すっかりなじんだ腕飾りをはずせば、あらわになるのは白い皮膚に刻まれた赤い傷痕。
かすかに盛り上がるそこへと、確かめるようにそっと指で触れる。
今はこの傷だけが、あの人をこの世に繋ぎ止める
軛。
++骨董品店 日月堂
4.歌声 【100文字】
かすかに聞こえてきた歌声に、カルセストは作業の手を止め、目をむいた。
低く掠れた聞き取りにくい、けれどどこか穏やかで柔らかい響き。
アーティルトが口元に指を一本立てた。
それはめったに聞けない無意識の産物。
++楽園の守護者
5.天使 【100文字】
たとえるならばまさに天使の微笑。
柔らかく温かな、全てを受け入れるがごときその表情に、魅せられたモノは人妖問わず数知れず。
―― しかし。
引きちぎられたその翼が血に染まっていることを、知る存在は少ないのだ。
++骨董品店 日月堂
6.旅に出よう 【99文字】
「次はどっちに向かおっか」
「どっちがどうだ」
「南に行けば川沿いの港町、東の街道は峠を越えて、山間の湯治場に向かうって」
「んー……別にどっちでも」
「ちったぁアンタも頭使えや!!」
大抵いつもこんな感じ。
++斬靄剣 鈴音道行
7.積み木のお城 【98文字】
「器用なモンだな」
「そうですね」
「あの触手で良く積めるな」
「細かい作業好きだそうですから」
「崩れる前に止めた方が良くはないか?」
「できる所までさせてあげればいいでしょう」
たとえ結果が見えていても。
++骨董品店 日月堂
8.愛してました 【95文字】
たとえもうこの世に存在しないとしても。
同じ形をして、同じ声をしたものがすぐ隣にいたとしても。
それでも同じように想える相手は他にいないから。
だからこの想いを、現在形で語ることも二度とないのだ。
++キラー・ビィ
9.可愛い犬 【100文字】
「直人、それはなんだ」
「栗饅頭だって」
「これは」
「
黍団子」
「この赤いのは」
「……練りきり、なんだけど」
「ほほう」
そうやってしっぽ振って目を輝かせてると、犬にしか見えないなんて言っても良いものだろうか。
++きつね
10.硝子のナイフ 【99文字】
落ちていた硝子の破片を、拾って無我夢中で切りつけた。
相手を切り裂くのと同時に、掌に突き刺さるざくりとした感触。
自分を傷つけてまで、他人を攻撃する意味はあるのか。
そんなことすら考えられなかったあの頃。
++楽園の守護者
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