螺旋
 モノカキさんに30のお題より】
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2003/04/18 11:00)
神崎 真


「そうだな……バネとか」
「ネジの溝もそうだよね」
「床屋の看板! あれ不思議だと思わねえか?」
「あ、それぼくも思った。子供の頃、いつまでも飽きずに眺めてたっけ」
「ラーメン丼の模様も渦巻きネ。あれも螺旋の一種ヨ」
「変転する人生の様を、螺旋階段にたとえることもあるな」
「古くから伝わる象形シンボルに、螺旋はよく登場する。不死や永遠の象徴であり、回帰性の顕れでもある」
「なかなか奥の深いものだな……」
 ハインリヒが呟いたのに、一同はしみじみとうなずきあった。
「 ―― で?」
 それまで黙っていたフランソワーズが、明るい声で問いかける。
「電話のコードがおかしいなんて、言い出したのは誰だったのかしら?」
 にっこりと満面笑顔のフランソワーズに、男どもはそろって沈黙した。
 互いにちらちらと交わし合う視線で、なんとか自分以外の誰かへ責任を押しつけようとしている。
 彼らの前には、分解された電話の受話器。取り外された螺旋巻きのコードが、途中で二つに切られてしまっている。
「いや、そのほら、こいつ途中で巻きが逆になってたからさ」
 居心地の悪さに耐えられなくなったのか、ジェットが口を開いた。残る面々はそろって『馬鹿……』と呟いていたが、賢明にも口に出すことはしない。誰しも生け贄は自分以外であってほしいものだ。
 哀れジェットは孤立無援で言い訳を試みる。
「反対になってるところが端っこに近かったから、そこだけ切ってつなぎ直せば、ちゃんとした巻きになるかなーなんて……」
 一本立てた指をぐるぐると回転させる。
 まっさかあの反対巻きに意味があるとはな。いやぁ本当に奥が深いぜ。
 笑い声は妙にむなしくあたりに響いた。
 ちなみに電話の本体と受話器をつないでいるコードは、必ず途中で巻きが逆になるよう作られている。そうすることで螺旋状になったコードを伸ばすとき、無理なねじれが生じないようにしてあるのだ。
 一見しただけでは判らない、なかなか気の利いた設計である。
「新しい電話、買ってきてね」
 今すぐ。もちろん自腹で。
 にこにこと微笑むフランソワーズだったが、その目は全く笑っていなかった。
「……ハイ」
 小さくなって返答するジェットに、一同は内心密かに手を合わせたのだった。


(2003/04/18 11:35)


いやまぁ、この程度の知識は、誰か一人ぐらい持ち合わせてそうですが。
螺旋螺旋と頭をひねっていて、冒頭のごとく連想していったあげく、ふと電話のコードを思いついたもので。


モノカキさんに30のお題

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