はじめまして
 モノカキさんに30のお題より】
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2003/05/05 10:17)
神崎 真


 思い返せば、ぼくとみなの出会いは、とてもあわただしいものだった。
 目を覚まして居たのは見知らぬ場所。そして次々襲ってくるロボットや戦車。
 脳裏に響く声に訳も判らぬまま導かれ、無我夢中で戦っていた。
 そうして、高空から投げ出され、もう駄目だと思ったとき、突然現れた002。
 連れて行かれた先で待っていたみんな。
 あとはもう、ほんとうにあれよあれよという間で。


 それはコズミ博士の元に身を寄せてからも、同じことだった。
 見知らぬ他人、それも生活も風習もまるで異なる外国人達との共同生活。
 互いのことを知らないのは、けしてぼくだけではなくて。みながそれぞれにとまどっていたと思う。
 なによりも、いつまたブラックゴーストに見つかり、裏切り者として狙われるようになるかもしれないと、そのことばかりを恐れていた。
 互いの過去を、持つ痛みをどことなく感じ取りながらも、そんなことに関わり合っている余裕などなく。ぼく達は同じ建物の中で、ただ寝起きしているだけに過ぎなかった。


「 ―― 荷物はこれだけ?」


 玄関先で、小さなボストンバッグひとつを手にしている008に、003が心配げな声をかけている。


「うん、あとは船便で送っておいたんだ。無事に届くかどうかは、判らないけれど」


 彼は今日、故郷のムアンバに発つ。
 ブラックゴーストの本拠地を破壊したいま、ぼく達はやっと、平穏と呼べる日々を取り戻していた。
 もう刺客が潜むかもしれない闇に怯える必要はなく。
 今日と同じ明日が来てくれることを、切ないまでに願うこともない。
 ぼく達がサイボーグであることは、変えようがないとしても。
 それでもぼく達は、再び人としての生活を送ることができるようになった。


 これからどうするのか、最初に決めたのは008。
 彼は戦争が終わったばかりの故国へ戻り、その復興につとめるのだという。
 彼の仲間達は、彼がサイボーグ化されているのだと知っても、いつか戻ってこいと言ってくれていた。いまこうして、それに応えるべく出発しようとしている008は、とても誇らしげだ。
 002や004、005も故郷に戻るという。006と007はお店を開きたいと言っていた。みなどこか不安は感じているようだったけれど、その顔はやはり明るい。
 日本に残ると言った003でさえも、生き生きとした表情で室内をせわしなく行き来している。


 ―― きっとこれが、みなの本当の顔。


 サイボーグとしてではなくて、人間として生きていた頃の、ありのままの素顔。


 ぼく達がはじめて出会ってから、ずいぶんの時間が過ぎている。
 けれど、きっと。
 今になってようやく、ぼく達は本当の意味で出会えたんじゃないかと、そう思う。
 戦うための運命共同体としてではなくて、こんなふうに互いのことを思いやれる、それぞれ一個人の友達同士として。
 だから……


 ぼくは立ち上がって、玄関へと向かった。


「ピュンマ」


 呼びかけると、彼はえ? と振り返った。
 それにぼくは笑いかける。


「いってらっしゃい」


 別れの言葉なんて言ったりなどしない。
 ようやく出会えたぼく達に、そんなものは不要だから。


 目をぱちくりとさせた彼は、やがて、照れ臭そうに微笑んだ。
 そうしてまっすぐぼくを、リビングにいるみなを見つめ返す。


「うん……いってきます」


 それはけして、別れの言葉などではなくて。
 ようやく出会えたぼく達が交わす、はじめましての挨拶だった。


(2003/05/05 10:56)


この人達、「はじめまして」なんて、互いに言ってそうにないなぁと思いまして。
ちなみになんでピュンマかって言ったら、おそらくこの人が一番最初に、行き先を決めただろうからです。


モノカキさんに30のお題

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